轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

一

一

秋ちゃん。

と呼ぶのも、もう可笑しいようになりました。熊本秋子さん。あなたも、たしか、三十に間近い筈だ。ぼくも同じく、二十八歳。すでに女房を貰い、子供も一人できた。あなたは、九州で、女学校の体操教師をしていると、近頃風の便りにききました。

時間というのは、変なものです。十年近い歳月が、当時あれほど、あなたの事というと興奮して、こうした追憶をするのさえ、苦しかったぼくを、今では冷静におししずめ、ああした愛情は一体なんであったろうかと、考えてみるようにさせました。

恋というには、あまりに素朴な愛情、ろくろく話さえしなかった仲でしたから、あなたはもう忘れているかもしれない。しかし、ぼくは今日、ロスアンゼルスで買った記念の財布のなかから、あのとき大洋丸で、あなたに貰った、杏の実を、とりだし、ここ京城の陋屋の陽もささぬ裏庭に棄てました。そのとき、急にこうしたものが書きたくなったのです。

これはむろん恋情からではありません。ただ昔の愛情の思い出と、あなたに、お聞きしたかったことが、聞けなかった心残りからです。

思わせぶりではありますがその言葉は、この手記の最後まで、とっておかして下さい。