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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

二十三

それだけをみて、ぼくはくるりと引っ返し、競争を廃棄しました。算盤をかえして、次にベレエ帽をかえすとき、内田さんは、「ぼんち、どうして止めたの」と訊かれ、「草の葉がなかったんだ」と答えると、「莫迦ね。ここにあるじゃないの」と彼女の胸にさしていた、忘れな草の造花を差出してくれました。

二十三

再び青きハワイ――。

ワイキキ。プウルを村川と二人、平泳の競泳をしながら、日本へ帰ったらうんと遊ぼうや、とつまらない約束をし、プウルから上がり、脱衣場に戻って行ったら、まんまと五弗入りの財布を盗まれていました。

ホノルルの日本領事館で、官民合同の歓迎会が催されたのち、邦人の方の御好意で、選手一同ハワイの名勝ダイヤモンド・ヘッドからハナウマイへかけて、見物させて貰いました。殊にハナウマイの涯しない白砂のなだらかさ、緑葉伸び張ったパルムの梢の鮮やかさ、赤や青の海草が繚乱と潮に揺れてみえる岩礁の、幾十尋と透いてみえる海の碧さは、原始的な風景というより風景の純粋さといった感銘がふかく、ながく心に残っています。

また、それ迄みも知らぬ赤の他人の邦人の方が、日本選手という名前だけで、自動車と昼食とアイスクリイムを提供してくれ、その上、細々と御世話を焼いて下さった御好意は、真実、日本人同士ならばこそという気持を味って嬉しかった。