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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
二十四
異境に培われた一輪の花の、やはり、実を結びがたい悩みと儚なさが露わにあらわれていて、ぼくには如何にも哀れに、悲しい夢だとおもわれたのです。
二十四
ハワイをでると、あとはもう横浜まで海ばかりだという気持が、なにかぼくを気抜けさせるものがあって、船室に引籠って啄木歌集を読んだり、日向に出ては海を眺めたり、そんな時を過していました。例えば、往きの船が、しょっちゅう太陽を感じさせる雰囲気に包まれていたとすれば、帰りの船はまた絶えず月光が恋しいような、感傷の旅でした。ぼくは自己批判も糞もなく、甘くて下手な歌や詩を作り、酩酊している時が多かった。
そうした或る日のこと、中村さんにプロムナアド・デッキで、ぱったり逢うといきなりサインブックをつきつけられ、「なにか記念になるものを書いて」と頼まれました。船室に持って帰って、前の頁を繰ってみますと、――乙女の君の夢よ、安かれ。――とか、高く強く速く頑張れ中村嬢――とか、様々な文句が書いてあるなかに、Y女子監督が――鯨吠ゆ太平洋に金波照り行方知れぬ月の旅かな――とかいう様な歌を書いているので、ぼくも臆面なく――かにかくにオリムピックの想い出となりにし人と土地のことかな、――と書きなぐり、中村嬢に渡しておきました。