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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

初めに書いた、嘗てぼくの童貞とやらに興味を持ったN子という女給もいれば、松山さんも沢村さんの女達もいるカフエでした。ぼく達が入って行くと、マスタアが挨拶に来るは、女給が総出で取り巻くは、大変なものでした。

ぼくはその頃むやみに酒を飲むようになっていましたから、一人でがぶがぶと煽り、手近に坐っていた京人形みたいな女給をちょっと好きになって、「君の名前は」とか訊いているうち、いきなり背後から生温かい腕がぺたっと頸のまわりに巻きつきました。振返ると熱柿みたいな臭いをぷんぷんさせたN子です。「聞いたわよ、坂本さん、船のなかで女のひとと凄かったんですッてねエ」「ああ」とぼくは素直です。「こんなお婆ちゃんじゃ、嫌い」とN子はぼくの頸にぶら下がったまま、ぼくの膝に坐り、白粉と紅の顔をぼくの胸におしつけます。

実をいうとぼくは肉体の快感もあって、こういう酩酊の為方も好いなあ、と思いかけていましたが、便所に立った虎さんが帰って来て、「オイ表に出てみろよ、大変な貼出しが出ているぜ、ハッハッハ」と豪傑笑いをするので、清さんと一緒に出てみますと、入口に立てかけた大看板に(只今オリムピックボオト選手一同御来店中)と墨痕鮮やかに書いてあります。