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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
その淋しい気持は出帆してからも続きました。見送りの人達の影も波止場も霞み、港も燈台も隔たって、歓送船も帰ったあと、花束や、テエプの散らかった甲板にひとり、島と、鴎と、波のうねりを、見詰めていると、もはや旅愁といった感じがこみあげて来るのでした。
出発時の華やかな空気はそのまま、船を包んで――ぼく達のクルウにも残っていました。朝のデンマアク体操も、B甲板を廻るモオニング・ランも、午前と午後のバック台も棒引も、隅田川にいるときとは比べものにならないほど楽だったし、皆も、向うに着くまではという気が、いくらかはあったのでしょう。東海さんや、補欠の有沢さんを中心とする惚け話や、森さんや松山さんを囲んでの色話も、盛んなものでした。
合宿の頃から、ずうッと一人ぼっちだったぼくは、多勢の他テイムのなかに雑ると、余計さびしく、出帆してから二三日、練習以外の時間は、ただ甲板を散歩したり、船室で、啄木を読んだり、船室が、相部屋の松山さん、沢村さんに占領されているときは、喫煙室で、母へ手紙を書いたりしていました。
故国を離れてから三日目、ぼくは恥かしい白状をしなければなりません。