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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

四

無暗に淋しくなったぼくはスモオキング・ルウムの片隅で、とても非常識な手紙を書こうとしていたのです。無論、書きかけただけで、実行はしませんでしたが、その前年の夏、鎌倉の海で、一寸遊んだ、文化学院のお嬢さんに、ラブレタアを書いてやろうと思ったのです。返事は多分、向うに着いて貰えるだろうと思いましたが、その、円らな瞳をした、お嬢さんには、すでに恋人があったかも知れないとおもうと、気恥かしくなって来て、止めにしました。

四

やはり、あなたと初めてお逢いした晩のことは、はっきり憶えています。

例の、食事中にはネクタイをきちんと結べ、フォオクをがちゃつかすな、スウプを飲むのに音を立てるな、頭髪に手を触れるな、といった食卓作法も、まだ出発して一週間にならない、あの頃はよく守られていました。

そうした夕食後の一刻を、やはり新人の為、仲間はずれになっている、KOのフォアァの補欠で、銀座ボオイの綽名のある、村川と、一等船客専用のA甲板を――Aデッキを練習以外には使うな、などという規則が守られていたのは、初めの二三日でした。――ぶらついていると、「オーイ、活動が一等の食堂にあるぞオ」