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オリンポスのかじつ

オリンポスの果実

田中 英光

「文学界」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页

青空文庫

しかしながら、その中に育った、ぼく達の愛情は、肉体の露わにみえる処に、あればあるほど肉体的でない、まるで童話の恋物語めいた、静かさでありました。あなたと語り合うことは、恐ろしく、眼を見交すことが、楽しく、黙して身近くあるよりも、ただ訳もなく一緒に遊んでいるほうが、嬉しかったのです。

夜の食事のときなど、メニュウが、手紙になったり、先の方に絵葉書がついていたりします。ぼくはその上に書く、あなたへの、愛の手紙など空想して、コオルドビイフでも噛んでいるのです。メニュウには、殆ど錦絵が描かれています。歌麿なぞいやですが、広重の富士と海の色はすばらしい。その藍のなかに、とけこむ、ぼくの文章も青いまでに美しい。ところで、あなたはパセリなど銜えながら、時々こちらに、ちらっと笑いかけてくれるのでした。

夜は、概して平安一路な航海、月や星の美しい甲板で、浴衣がけや、スポオツドレスのあなたが、近くに仄白く浮いてみえるのを、意識しながら、照り輝く大海原を、眺めているのは、また幸福なものでした。

なかでも、わけて愉しかったのは、昼食から三時までの練習休みの時間、大抵のひとが暑さにかまけて、昼寝でもしているか、涼しい船室を選んで麻雀でも闘わしているのに、ぼくは炎熱で溶けるような甲板の上ででも、あなたや内田さんと、デッキ・ゴルフ