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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
十一
沸騰する飛沫に、翻弄され、そのまま碧い水底に沈んで行くかと思われましたが、不意と、ぽッかり赤い表紙が浮び、浮いたり、沈んだり、はては紅い一点となり、消えうせ、太平洋の藻屑となった。
十一
愚かにもその晩、ぼくはよく眠れませんでした。
翌朝、いつもの様に、朝の駆足をやっているときです。あのときのオリムピック応援歌(揚げよ日の丸、緑の風に、響け君が代、黒潮越えて)その繰返しで、(光りだ、栄だ)と歌うべき処を、皆は、禿さんと蔭で呼んでいる黒井コオチャアへのあてこすりから、(光りだ、禿だ)と歌うのです。ぼくは黒井さんが好きでしたし、その若禿の為に、許婚を失ったという、噂話もきかされているので、唱う気にはなれません。
と号令が速足進めに変り、「一、二、一、二」と、黒井さんが調子を張り上げます。「四番、もっと手を振って」と注意され、ぼくは勢いよく腕を振り上げようとすると、可笑しなことに、手と足と一緒に動き、交互にならないのです。例えば、右脚をあげると、自然に右腕が上がって、左腕が上がらないのです。無理に、互い違いに動かそうとすると、手が上がらなくなるばかりではありません。