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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
裁判を判例法にするか、成文法にするかの、基本的な調査だったが、調べているうちに、由井正雪の事件にぶつかった。
ここでその出来ごとを、詳しく記す必要はないだろう。徳川幕府の権威がしだいに確立され、ほぼ百年泰平のみとおしがつくと共に、主人をもたない武士たちや、主家の改易で浪人した人々の、仕官や出世の機会が少なくなった。原因はほかにもあるだろうが、これらの浪人たちを煽動して、由井正雪という市井の軍学者が、社会変革の謀反を企てた。それが事前に発覚し、徒党は空しく罪死したのであるが、その企図の全貌は、当時の幕府の方針として秘匿され、詳しいことは殆んど知らされなかった。
「謀反としてはたいした規模のものじゃない、実現の可能性もあまり認められない程度のものなんだが」と主馬は云った。
「ただそこに、一つだけ、疑問があるんだ、それは一味の資金関係だ」
「おれが聞いても、興味のあることか」
「聞くだけは聞いても損はないでしょう」
そこへ、なをとおいそが酒の膳をはこんで来た。主馬は、酌をしに坐ろうとする二人を、下へ去らせて、半之助と自分の盃に、手ばしこく酒を注ぎながら、続けた。