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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

三

「――きれいだね」

半之助は花世の姿を見て、こう云ってから、本当に彼女が、見ちがえるほど美しいのに気づいて、眼をみはった。

花世も、彼の視線と嘆賞の言葉が、自分を褒めているのだと、気がついたらしい、ちょっと得意そうに、すましてみせたが、嬉しさのあまりすぐに笑いだし、

「さあまいりましょう」

とはなやいだ声で云った。

半之助は胸のなかに、あまやかな、温かい感情のたゆたいを覚えながら、青澄んだ明るい山道を、登っていった。

三

「わたくしゆうべの夜なかに、ずいぶん泣いてしまいましたわ」

花世は歩きだすとすぐ、恒例のお饒舌りを始めた。言葉のていねいなときは、たいてい半之助に関する話である。またくさらせられるのか、と思っていると、はたしてそのとおりになった。

「どうしてだかおわかりになって」

「まあ聞かせて下さい」

「わたくしね、あなたに鳥の翼とおんなじ、羽根を付けてあげたいと思いましたの」

「ほう、羽根をねえ」

「鷲のように大きくて強い、そしてきれいな翼をですの、そうすればあなたは、好きなとき空へ舞いあがって、自由自在にどこへでも飛んでゆくことができますわ」

奴袴をはいていないので、彼女は裾が気になるらしい。