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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
五
「これはだめだ、出て貰おう」こう囁くと、主馬は笑って、「ばかなことを云っちゃいけない、ただの垢掻き女じゃないか、子供みたようなことを云うと笑われるぞ」
女たちはすべて無言で、二人の髷を解き、汗が出てくると、その柔らかい手で、全身の皮膚を巧みに擦りながら、垢を揉みおとした。垢掻き、とはよくいったもので、擦るにしたがっていくらでも垢がよれる、そのうえ、よほど力をいれるのだろう、彼女たちのあらい息づかいが聞えるし、湯気に熱した若い躰臭や、香油の匂いが、風呂舎いっぱいにこもるようで、半之助は少なからず閉口した。
「今日は静かだね」
主馬は平気で、自分の掛りの女に、そんなことを話しかけた。
「丸茂の爺さんは来ているのか」
「はい、いらしってます」
「神田橋のほかに、客は誰だ」
「わたくしの存じあげない方でございます」
「四五人いるらしいな」
女はそれには答えなかった。主馬はおしまいに、すばやく囁いた。
「あとであの部屋を頼むよ」
女はそっと頷いた。
五
風呂から出て、髪を結び、浴衣を着せられて、座敷へ戻るとまもなく、べつの女中が三人で、酒と肴をはこんで来た。
「また酒か」
「まあやってごらんなさい、酒にはちがいないが、ちょっと手にはいらないやつだ」