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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
倒林
一
彼は自分たちも死ぬだろう、と思った。恐怖のためにわれを忘れたのであろう、非常な力でしがみついてくる花世の、おののき震える、柔らかな躯を、両腕でひっしと抱き緊めながら、――これで叔父の死躰も、ゆくべきところへゆく、ということを思った。
倒林
一
「あれがゆうべの大崩壊のあとですね」
青山主馬は、大きなつつじの木に捉まって、覗きこむように、山腹の斜面を見た。
「なるほど凄い、ひと尾根すっかり崩れていますよ、洞窟などは跡かたもなくけしとんだでしょうな、あとを追って入らなくていいことをしました」
村田平四郎は黙って、主馬とは反対に、うしろのほうを見ていた。
そこは甘利山の頂上の近くで、まわりは柔らかい若草と、つつじの木が密生し、どちらを向いても、遠くうちひらけた展望がある。主馬の立っているところからは、八ヶ岳、茅ヶ岳などが見え、すぐ下には、かんば沢の、(それはすっかり崩壊して、砂礫と土のむきだしになった、むざんなさまを呈していたが)急勾配の谷間があり、眼をあげると、大きく裾を張った茅ヶ岳や、八ヶ岳が眺められる。
平四郎の位置からは、右に櫛形山、正面に富士山が見える。