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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
四
――彼は活き活きとし始めた。そんな抽象的なことを、考える暇がなくなったのだろう、つまり生活が始まったんだ。
それが自然かもしれない。人間はつまるところ、おのおのの生活にはいってゆく。生活は世の中の機構のなかにあるから、惰性と常識に馴れてゆくよりしかたがない。
――そして主馬も、他の幾千万のおとなのように、おとなになってゆくんだ。
こう思って、ふと溜息をついたとき、主馬が元気な足音をたてて、はいって来た。
四
「どうした、うまく穏やかに済んだかね」
「どうだかね」
主馬が着替えるのを、寝ころんだまま眺めながら、半之助はもの憂そうに答えた。
「忍耐に使ういい話というのを、聞いておけばよかったかもしれない」
「その話はするよ、しかし約束は守って呉れたろうな」
「おれは守ったがね、どうやら守っても守らなくても、同じことらしかったよ」
「というのは……」
「まあ着替えてからにしよう」
主馬が浴衣になり、あとを片づけたなをが、注文を聞いて去ると、半之助はようやく起きあがって、冲左衛門や千之助との問答を、あらまし語った。
「ははあ、いかがわしい人間、とね」
主馬は首を捻った。