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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

三

「うう……」

妙な声をだして、主馬は酒を飲んでから、なにやらとりすました眼つきで、半之助を見た。

「つまりこの際、谷町のお婿さんになるのは、不得策だということなんだが、そのついでにだね、いま云った証拠というのを見せたいんだ」

「なんの証拠をさ」

「柳沢をどういうものが支えているかという、じっさいの情景さ、そして、そのうえで相談もあるんだ」

「なにか曰くありげだね」

「ないこともない」主馬は、半之助の疑わしげな眼を、やわらかに微笑で受けた、「しかし曰くはあとの相談として、ともかくつきあって呉れないか」

「まさか例のを食いにゆくんじゃあるまいな」

「食ってもいいじゃないか」

「この暑さに、冗談じゃない」

「いやならむりに食うことはないさ、いちど見ておいても損はないけしきだよ」

もう少し日が傾いてから、ということで、ともかく、証拠とやらいうのを、見にゆくことに定ってしまった。

三

あとで思うと、それは計画的であった。主馬は初めから、さそいだすつもりで来たのである。しかし、単にそれだけの意味ではなく、その裏にもうひとつ、べつの理由があったのであるが。

二人がでかける少しまえに、母が佐枝を伴って、谷町から帰って来た。