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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
三
三
酒の支度をしようか、となをが聞きに戻ったが、主馬がもう来るだろうし、まだなにも欲しくなかったので、そのまま待つことにした。
――これで谷町とは縁が切れるだろう。
母はまだみれんがあるらしい。しかし、半分は諦めていたようだ。千之助が、自分の代りに佐枝の婿になりそうだ、ということを告げたら、どう思うだろうか。
「二人は伯母と甥だ」
ふと呟いて、そんな呟きがしぜんと口に出たことに、半之助は少しおどろいた。
――おれの気持は、母からまで、こんなに離れてしまった。
たしかに、もうかなりまえから、彼には、母の存在がうるさくなっていた。父の生きていたときは、そんなことはなかった。小言もすなおに聞けたし、身のまわりの、こまごましたことも、すすんでして貰った。もともと、よその家庭ほど厳格でなかったのと、一人息子で、我儘に育てられたから、どっちかというと、母にはあまえっ子であった。今でも、母のいないところでは、ときによると、かなしいほど母に愛情を感じるが、いっしょにいると、堪らなく気ぶっせいで、鬱陶しくて、苛いらしてくる。それは、まるで本能のように、抑えることのできないものであり、しだいに強くなるばかりだった。