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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

同僚たちは代る代るみまいに来た。もちろん医者にもみせたし、祈祷師や修験者を呼んだりした。およそ四十日ほど、こんな状態が続いたあと、少しずつ躯もよくなり、発作の起こる回数も減って、熱心に書きものなどするようになった。……これなら恢復するかもしれない。そう思われたのであるが、九月下旬のある日、孫七がちょっと用達しに出たあとで、とつぜんまた行方をくらましてしまった。

庭の沓脱ぎ石の上に木犀の枝の剪ったのが捨ててあり、縁側に花鋏があった。木犀を剪って、活けるつもりで、そのまま出奔したもののようであった。

それが最後の失踪であった。

同僚の二三と孫七とで、甘利郷のあたりを捜してみたが、やっぱりかんば沢へはいったらしいということで、どうしようもなかった。十二月に役所から人が来て、家の中を調べたところ、持ち物はきれいに始末してあり、その処分の仕方を書いたものや、江戸の家族へ宛てた、遺書のようなものも発見され、いろいろな条件から、こんどは帰らないだろう、ということがほぼ明らかになった。こうして行方不明のまま、兵庫は病気隠居ということに定り、孫七はあと始末をして、江戸へ帰って来たのである。