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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
四
それほどその執着は激しく、狂的なものであった。そして、やがてまた家をとびだし、ついに行方知れずになったのである。そしてかんば沢へはいった、ということは慥からしいが、そのほかのすべては不明のまま、死躰さえ発見することができなかった。
「なにかがあった」半之助は、こう呟きながら、雨雲の低く垂れた空を見あげた、「しかも尋常なものではない、叔父はそれを恐れた、それに惹かれる自分をも恐れた、たぶん、そこへゆけば自分が破滅することを知っていたのであろう、にも拘らず、やはりそこへゆかずにはいられなかった」
どこかへずるずると、ひき込まれるような気持で、しばらく空を見まもっていた半之助は、やがて立って、叔父の遺品の包を取りに、納戸へはいっていった。
四
それからまる三日、彼は叔父の遺したものを、たんねんに読み耽った。
雨は少しもやまず、低い湿地のほうは、池のように水が溜まり、きれいに鋤き返した斜面の土は、端から崩れだして、土止めをしても防ぎきれなくなった。村野市造は、小者や人足をさしずして、しきりに水排けのくふうをしていたが、土地が柔らかいのと、雨がやまないのとで、結局どうにもならなくなったらしい。