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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「大げさなことになったものですねえ、なに様の法事ではあるまいし、ひどいもんだ」
半之助は、ふきげんに眉をしかめた。
「でも谷町でして呉れるものを、断わるわけにもいかないでしょう」
母のしづはさりげなく云った。
「それに、このあとは七回忌ですからね、三年にはどこでもこのくらいのことはしますよ」
「しかしそれだけの意味じゃないんだから」
独り言のように、口の中で呟いて、それからそこを去りながら、低いけれどもきっぱりした調子で云った。
「私は寺から脇へまわります」
母はなんとも云わなかった。
谷町の安倍は、一族の宗家に当るという。宗家などというと、ごたいそうであるが、お徒士から出た八百石の旗本で、当主になってから、うまく柳沢系にとりいって、現在は千二百石の大御番を勤めている。こちらは一族の末席であり、三百石あまりの新御番にすぎない。そのうえ亡父の伊右衛門が、谷町とのつきあいを嫌っていたので、ごく稀にしか往き来がなかった。それが父の死後、向うからにわかに近づいて来た。
半之助が新御番になれたのも、じつは、谷町の奔走のおかげだそうである。亡父もその席にいたが、むろん世襲ではなく、裏からしかるべく運動したり、金品を贈ったりしなければならない。