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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「小仏の関所ではなんの故障もなかった、道中規則はちゃんと守っている、大老柳沢侯の荷駄である、しかもこの関所に至って、急に検察の命令が来たとなると、その理由や出所を訊くのは当然ではないか」

「しかしそれは、この荷駄に限って、というわけではないので」

「まぎらわしいことを云うな、そこもとはこの関所の関守であろう」来太は喚きだした、「しだいによっては江戸へ戻り、老中、大目付へ訴えて出る、その急使の出どころと、出した者の名を聞こう、それまでは断じてここを動かんぞ」

一般的にいって、不正なことをする人間ほど、威たけだかで、堂々として、正義派めいた口をきくようである。来太の舌鋒も、その圧迫的な姿勢も、そういう種類のものに、かなり似かよっていた。

明らかに、小橋甚兵衛は当惑していた。

できることなら、相手の要求に応じたであろう。しかし、それは不可能であった。その荷駄を検問せよ、ということは、きょう初めて会う青山主馬の通達であった。主馬は「遠国鉄炮改」役、仙石丹波守の符札を示して、その旨を伝えた。

小橋与力はもちろん主馬を知らない。もしも主馬が身分を偽り、符札が贋であるとしたら、相手が柳沢侯の荷駄であるし、関守としては重大な責任問題となる。