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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

それを進んでやって呉れた、ということは、半之助にしても有難い。さもなければ、小普請にはいって、ことによると一生、退屈きわまる生活を、送らなければならないからだ。

だが半之助は、それをすなおに、有難い、とは思えなかった。冲左衛門という、その人は、時流に乗って出世する人間に共通の、押しつけがましさと、厚顔と、そして貪欲を兼ねそなえていた。その子の又五郎が、これまた父に輪をかけたような性質で、臆面もなく、柳沢家にとりついていて、まわりの者から、――柳沢の御用達、などと、卑しめられていた。そればかりではない、谷町が近づいて来た理由の一つは、二女の佐枝を、半之助の嫁に呉れよう、という気持らしいのである。

――とんでもない。

半之助は独りで首を振った。

母のしづは、谷町との縁組が、実現することを、のぞんでいた。相手は一族の宗家であり、うしろに柳沢という勢力がある。こういう条件は、当時のたいていの母親がそうであるように、しづにも強い魅力だった。良人が生きていたときは、良人と同じように嫌っていたが、わが子の将来、出世のいとぐち、ということになると、あっさり変ることが、できるらしい。