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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
それが母の愛情かもしれないが、半之助には相当やりきれなかった。
寺へさきにゆくつもりで、玄関へ出ようとすると、中の間の廊下で佐枝にであった。
「今日は御主人役でたいへんね」
彼女はこう云って、大胆にこちらを見あげながら、親しげに笑いかけた。
「お友達がいらしったら、みなさんおつれしていらっしゃい、たくさん御馳走しますわ」
「有難う、暑いのにどうも」
半之助はあいまいな返辞をして、そうそうに玄関のほうへ去った。
彼女とは二年このかた、ほんの三度か四度、それも挨拶を交わすくらいの、つきあいしかなかった。顔だちもそう悪くはないし、利巧そうでもあるが、どことなく高ぶっているのと、あまりに狎れ狎れしいのとで、半之助にはどうしても、好きになれなかった。
外は風がなく、かなり蒸して暑かった。南部坂のところで青山主馬にあい、いっしょに坂をあがると、すぐ右がわにある昌雲寺の、門のところに、村田平四郎と正木重兵衛が、日を除けながら立ち話をしていた。
「また中止になったね、柳沢邸へのお成りが、知ってるかい」
正木重兵衛がせかせかと、こう云った。
「知らないねえ」
半之助はそう答え、すぐに村田へ話しかけた。