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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
――たしかにあのときの娘だ。
半之助はこう思う。天平仏に似た顔だち、上唇の脇にある黒子。それは、あの山村座の茶屋で見た、あの娘に紛れはない。見れば見るほど、その印象は動かしがたいものになる。
――そしてあのときの声も。
青山主馬に、築地の丸茂へつれてゆかれたとき、二ど聞いた、郭公鳥の鳴くような、あの呼び声と同じものであった。
――たしかに同じだった。
しかも、その二つのばあいを、あの珍しい、菱形の紋が、つないでいる。もはや、とうてい偶然の一致とは考えられない、まちがいなく、山村座の茶屋で見、丸茂の裏でその声を聞いた、あの娘である。
それはもう疑う余地がない、と思うのであるが、一方では、どうにもぴったりしない感じが残った。
三人の若者に、全身の汗をぬぐわせていたときの、ひと言も口をきかず、きりっと立った姿勢や、妖しくきらきらする眸子や、そして、どこやら悪徳のほのめくような美しさなど。いま眼の前に見る花世の、少年のように新鮮な、少しもよごれのない姿とは、その差があまりに大きかった。
――たしかにあの娘だ。
――しかしあの娘ではない。
こういう不安定な、どちらとも判断することのできない感じが、どうにも頭から去らないのであった。