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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「ええ本当なの、それはね」

花世は話し続けていた。

「それはまるで、まっ白な雪の宮殿なの、まっ白で、お日さまが出るときらきら光って、眩しくって見ていられないくらいよ、そして月夜に見ると、凄いの、そうね、なんて云ったらいいかしら、……そう、とても云えないわ、凄いっていうほかには、なんと云いようもないわ、あなたごらんになればわかってよ」

そして力をこめて云う。

「ね、ごいっしょにゆきましょう、もう四五日して、満月の晩が来たら、ね、しょうさま、いいでしょ」

「こんどはしょうさまですか」半之助は苦笑しながら答えた。「ええつれていって貰いましょう、しかしその、凄い宮殿というのはいったいなんです」

「あら、もうさっき申上げたでしょ、甘利山のうしろの、向うにある法王山よ、聞いていらっしゃらなかったのね」

「聞いていましたよ」

「あなたもう甘利山へお登りになって」

半之助は首を振った。

「あらいやだ、では此処へいらしってから、どこもごらんにならないで、じっとこうしていらっしゃるのね、ずいぶんな怠け者だこと」

「それは私の罪じゃない」彼は苦笑しながら云った、「此処へ来るときに、いろいろな人からおどかされましたからね、椹ヶ池へ近よってはいけない、かんば沢へ入ると生きては帰れない、どこそこには亡霊が出る、甲斐の国じゅうの狸の集まる場所がある