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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
その眼は火のように、ぎらぎらと光り、蒼ざめた顔に、さっと血のさすのがみえた。
「手を束ねていても、わたしたちは亡ぼされてしまう、生きるか死ぬかの、時が来たのです、甲府城には、武器も、兵粮も、馬も、兵も集めてある、恵林寺さまの御遺志を守って、城にたてこもって、ひと合戦するか、黙って幕府の手に捕われるか、途はこのうちの、一つよりほかにありません、また、武田家再興の望みも、この機会をのがしては、もう決して来はしません、これが、百三十余年のあいだ、待ちに待った、たった一度の機会です、今後には決して望みのない、たった一度の……」
こんどこそ、彼は思いだした。
――あの女だ。
木挽町の芝居茶屋で見た、あの異常に美しい、妖しく魅するような、彼女の姿を。……それは、天女の衣裳と、宝冠を着けたままで、ふしぎなほど鮮やかに、記憶からよみがえってきた。
――だがいったい、……いや、そうだ、姉妹にちがいない、花世にわきをつとめさせ、あのような態度でものを云う、おそらく花世の姉であろう。
このあいだにも、登世は、しだいに昂ぶってくる声で、殆んど叫ぶように、言葉を続けていた。