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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

にできたらとお思いになるでしょ」

花世は彼の顔をじっと見た。そして、彼がなんとも答えないうちに、さもせつなそうな溜息をついて、云った。

「けれども人間に羽根を付けることはできませんわ、どうしたって、……もしかして、乙女の命でそうすることができるのなら、いつでも命くらい代りに出しますわ、命じゃなく、手か足くらいだともっといいけれど、命だってちっとも怖かありませんわ」

「道はこういっていいんですか、どうやら下りになるようだが」

「でもどうしたってできませんわ」花世は構わずに続けた、「どんなことをしたって、乙女の命に代えたって、あなたに翼を付けてあげることはできない、あなたの望みをかなえてはあげられない、いつまでもあなたを不幸なままにしておかなければならない、……そう思うとあなたがお可哀そうで、自分が哀れで、悲しくって、辛くって、いくら泣いても涙が止りませんの」

下りになった道は、いつか林をぬけて、かなり急な登りになり、山の中腹をまわるところでは、法王連山の見えることもあった。しかし花世は登り続けた、法王山を見るには、見るべき場所がある、というのである。そしてお饒舌りはなおやむけしきがない、それはもう歌のようであった。