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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

――要するに反抗でしょう、世間一般の俗習に抵抗することでしょう。

彼はこう云ったことがある。

抵抗の第一着手は「結婚を拒否する」ことである。妻をもち、子が生れ、温たかい家庭ができる。勤めにも故障がない、という状態が、精神をふやけさせ、人間を飼い犬のようにする。だからこそ、真理を探求する禅家では、思考の自由を確保するために、一生不犯の戒律をまもるのである、などといきまいた。しかし、五人のなかで、いち早く結婚したのは、当の重兵衛であった。

青山主馬は家が近所なので、幼いときからの友であり、半之助にはもっとも遠慮のない相手だった。

彼には不幸な恋の経験がある。相手は青山家の遠縁の者で、稲垣数馬という、二千石ばかりの旗本の娘であった。名はしほといったが、主馬が十八歳、しほが十六歳のとき、お互いに恋しあい、逢うことはごく稀にしかなかったが、手紙はしげしげと遣り取りした。半之助はそれをうちあけられ、手紙のなかつぎもした。ときには娘からの文を読まされたこともあるが、たいへん熱烈な、そして情緒のあふれる文言であって、――あなたと御夫婦になることができなければ、死んでしまうか、尼さんになるほかはない、このことは命にかけて誓う。