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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「乙女さま、早く」大助はのりだして叫んだ。

花世はあざやかな抜き手で、魚のように早く泳いで来る。そのとき、和助という若者の乗った舟も、そこへ漕ぎ寄せて来た。

「なにをしているんだ、乙女さまはどうなすった」

「いまおいでなさる」

大助は苦笑しながら、向うの、ひっくり返った舟と、水をはねちらしている人たちを指さした。

「困ったおいたずらだ」和助は自分の舟をまわらせながら、「今日は七夕で、あのお屋敷へゆく日じゃないか、比女さまはたいそう怒っていらっしゃる、おまえも知っていた筈だろうが」

「そんなことぐらいで、乙女さまがすなおにお帰りなさると思うなら、お守り役はこれから和助に譲るよ」

「なにを云うんだ、つまらない」

和助は相手にならず、ちょうど泳ぎ着いた花世に向って、こちらへお乗りなさい、と呼びかけた。

「こちらは櫓が二挺ですから早うございます、比女さまがお待ちかねでございますから、大助、お召物を」

「ああ面白かった」

花世は疲れたようすもなく、舟へあがるとうきうき叫んだ。

「おまえ見た、和助、乙女がいま舟をね、あの舟よ、あれをね」

和助は彼女を浴衣で包んだ。

二

和助の云うほど、登世は、怒りはしなかった。