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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
「お父さまは卑怯です」津留は眼に涙をうかべながら云った、「――御自分が泰三さまに肚を立てていらっしゃるものだから、泰三さまがひどいめに遭うのを喜んでいらっしゃるんです、わたくしみんな知っています」
「なにを云いますか津留さん」母親が側から驚いて叱った、「お父さまのお考えなさることに間違いはありません、それにこんな事は女の口を出すことではないのですから」
「泰助さまもそれでいいのですか」
津留はこんどは舌鋒の向きを変更した。
「血を分けた弟が七八人も十四五人もと決闘をなさるというのに」
「いや十四五人などはおらん五六人だ」
「お父さまは御自分で七八人かもっといたかもしれないと仰しゃったではございませんか、現に見たお父さまが仰しゃるのですもの、本当は二三十人いるかもしれませんわ、いいえきっと二三十人はいると思います、それなのに泰助さまは兄として安閑とそうして茶を召上っていていいのですか」
姉の千賀がはらはらして「津留さん」と云い、母親も「津留さん」と制止したが、この溌溂たる妹娘はいさい構わず、「それでもあなたには御兄弟の情がおありなのですか」
こうきめつけて凄いような眼をした。