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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

採ってその邸の番人に追っかけられもした。

このなかで特に親しくなったのは、本多孫九郎の仲間と野村吉太郎の仲間である。もちろん別々にではあるが、どちらも泰三には特殊な親密さを感じているらしく、道や城中の廊下ですれちがうときでも、「やあ――」などと云って、一種の表情でこちらを見る。そのときによって違うが、そしてことによると泰三のほうの状態に原因があるかしれないが、或るときはその表情は、

――どうですか、少しは融通しましょうか。

などという意味に思える、そこで泰三としては早速そっちへ寄っていって、「ひとつ頼むよ、小遣が無くなってね」

遠慮なしに徴発した。またときには、――どうです一杯やりませんか。という意味にみえるがもちろんこれもたいていは辞退しない。

「帰りにやろう、盛大なところを頼むぜ」

だがこれは殆んど本多一党に限っていた。野村一派には「柳亭」で懲りている、かれらは無役であるか二男三男の輩で、うっかりするとこっちが徴発されそうだから、なるべく当り触りのないような態度をとった。かれらのほうでも決して誘惑的な表情などはしない、その代りというわけでもないだろうが、道でほかに人のいないとき会ったりすると、「旺んにやってますね、噂は聞いてますよ」