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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
それらはやがて統一されて「大賢人」ということにおちついたが、……これを聞いたとき山治右衛門は寝酒を飲んだ、晩酌は五合と定っていたし、このところ寝酒など飲むことは絶えてなかった。それを敢えてしたには理由があるに違いない。
「お父さまよっぽどお嬉しいのね」
こう云って津留は笑って、眼をくるくるさせた。もちろん皮肉であるが、母や姉には通じない。彼女たちは善良であるから、右衛門の胸中を察し、津留の勘の悪さに驚いたくらいで、「お父さまは嬉しがっているのではありません、内心は怒っていらっしゃるのです」と母親がたしなめた、「――典木さまのことをよくも知らないで、世間の人たちがつまらない悪口を云うので、気を悪くしていらっしゃるんですよ」
「あらそうかしら、わたくしが聞いたのは大賢人ッていう綽名でしたわ」
「それが悪口なんです、本当はその反対の意味で云ってるんですよ、あなたにも似合わない、そのくらいの意地悪がわからないんですか」
「まあそうでしたの」津留はまた眼をくるくるさせて、さも吃驚したように云う、「――大賢の反対ッていうと大愚ですわね、お世辞のうまいこと、わたくしならそんなふうには云いませんわ、わたくしならもっとはっきり」