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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
大学内のその、生理学教室に居って研究をされつつある……」
と真顔にお孝に打傾いて、左の手の自脈を取りつつ、
「まるでこの方には関係ない。純粋のその学者じゃとある。で、なお怪いですわい。その晩の挙動なり、……あの余り……貴方の前じゃけれどもが、風采の上らん、痩せた、薄髯のある、背の屈んだ、こう、突くとひょろひょろっとしそうな、人に口を利くにおどおどする、初心らしい、易っぽい、容子と云うのがじゃね、
人品備わらんですじゃろうが、どうですかね、……きゃッ、きゃッ、きゃッ。」
空咳きに咳入るごとく、肩を揺って高笑いをする。
「さあ、」と云ったが、ほほほ、とばかり、この際困ったという片頬笑みをして、ちょっと指先で畳をこすり状に、背後を向いて、も一度ほほほ、と莞爾すると、腰窓を覗いていた、島田と銀杏返が、ふっと消える。
巡査は、すなわち髯を捻って、
「怪しいものではあるまい。後暗い事は、それは無いのじゃろう。がです……あの晩の人間は名を騙った者に相違無い、とどうしても疑われてならんもんで。好奇心にも駆らるるですわ。非常に思切って、医科大学に刺を通じて面会を求めたです。