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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

一口か一挺か

五十五

「これを裂いて紙捻にしようよ、――人を呪わば穴二つさ。見たが可い。」

気の立ったお孝は、褄を引上ぐるより前に、雨霽の露地へ、ぴたと脱いだ、雪の素足。

意気地も張も葉がくれの闇に、男を思うあわれさよ。鶴を折る手と、中指に、白金の白蛇輝く手と、合せた膝に、三筋五筋観世捻、柳の糸に、もつれ縺るる、鼓の緒にも染めてまし。

あわれ、かかる時は、あすの逢瀬を楽みに、帰途を案ずるも心ゆかし、寐られぬ夜半の待人掛ける、小さな犬も拵え交ぜて、お千世に背打たれて微笑みもしたが。

柳の葉の散る頃は、――続いて冬枯の二日月、鬢櫛の折れたる時は――

一口か一挺か

五十五

――「露地の細路駒下駄で。」――

男が口の裡で、フト唄って、

「不可んぞ、これは心細い。」と、苦笑いをしながら立直って、素直に杖を支くと、そのまま渡り掛けたのは一石橋。月はないが、秋あかるく、銀河の青い夜の事。それは葛木晋三である。

露地に吾妻下駄カタカタの婀娜な女と因縁のある、唄の意味も心細いが、お孝が投遣りに唄うのは、勝気と胆勇を示すものと云って可い。その口癖がつい乗った男の方は、虚気と惑溺を顕すものと、心付いた苦笑も、大道さなか橋の上。