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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
「謝まる。」
と俯向けに、中折帽ぐるみ顔を圧えて、
「何とも面目次第も無い!」
「……清葉命……と顔に書いてあるようだわね、口惜いね、明い処でよく見てやろうや。」
「どこへ行く気なんです。」
「縁結びに……西河岸のお地蔵様へ。」
肩でトンと寄添いつつ、
「分ったでしょう、貴方、この妓には遠慮は要らない。千世ちゃん、御覧、似合ったかい。」
「あら、姉さんは?」
「お孝さん。」
「(同じく妻。)だわ。……雛の節句のあくる晩、春で、朧で、御縁日、同じ栄螺と蛤を放して、巡査の帳面に、名を並べて、女房と名告って、一所に詣る西河岸の、お地蔵様が縁結び。……これで出来なきゃ、日本は暗夜だわ。」
肩に掛った留南奇の袖。
お孝を掠めて腕車が一台。
「危え。」
矢のごとし。
「おや、おいでなすったよ……」
――露地の細路、駒下駄で――
細く透って凄い声する。
「可厭、姉さん。」
「それ、兄さんにおつかまり。」
飛つくお千世を葛木に縋らせて、ひとり褄を挙げて、悠然と前へ立って、
「大丈夫、そうすりゃ、途中で、誰かに逢っても安心でしょう。」
葛木は、扱兼ねたか、わざと不答。
「千世ちゃん、お前寒くはないかい。