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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

「罌粟の花は?」

「ホホホホ」と女はちょっと羞らいを見せて、高らかに笑った。「一度入っただけでよかったものを、御苦労さまにもまたもう一度出入りして、あの花を買って来たのよオ。妾は男の人とみると、直ぐ岡惚れしちゃうのが悪い病でネ。尤もお前さんの場合は、写真に岡惚れしたってわけだけれど……」

蓮葉だった女は語るに連れて、それでもだんだん女らしさを取りかえしてくるようだった。

「じゃあ、もう僕は用事がないわけですね。貴女はあのボロ布に包んだものを、たしかに速水輪太郎氏に渡して下すったのでしょうネ」

「それは間違いなしだわ。……妾の方に用事はないけれど、あなたの方になにか話があるのじゃないかと思ってたのよ」

「飛んでもない、僕の方にどうして話なんか有るものですか」

と、僕は憤然として立ち上った。

このとき女は、憎らしいほど押し黙って、そっぽを向いていた。そのはだけた襟の間からは、膨れあがったような真白な肉の隆起が覗いていた。その上を匍いのぼると、白い氷山のような広い頸があって、見るのも羞かしいような細いくびれの筋がつき、その上に四、五本の後れ毛が搦みついていた。