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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
「打ってやろうか。引金を引っぱればズドンと行くのだ。だが、打ったら大変なことになるんだぞ。打っちゃいけない。打っちゃいけない」
併し、いけないと思えば思う程、引金にかけた指が独りでに曲って行った。誰か止めてくれと泣き出しそうになりながら、とうとう、引金が動いた。ワッ、しまった。と思った時には、ブスッという慄え上る様な音がして、煙硝の匂がパッと鼻をうった。
目をそらしたが、目の方で釘づけになった様に、相手を見つめて動かなんだ。
幽霊男は、まるで別人の様な、変な表情で、黙って突立っていた。両眼は開ける丈け開いて、愛之助の方を向いていたが、それが妙なことに、睨みつけられているという感じは少しもしなかった。
拡げた両手の先丈けが、掴みかかる様に、可愛らしく一寸動いたかと思うと、やがてグッタリ両脇に垂れてしまった。
白いワイシャツの胸に、焼け焦げたみたいな小さな穴が開いていた。奥底が知れぬ様な黒い穴だった。見る見る、その穴から絵の具の様な真赤な動脈の血が、ブツブツと泡を吹いて湧き出し、細い川となってツーッと流れた。
同時に、男の大きな身体が、溶ける様に、或は、くずれる様に、ヘナヘナと俯伏せに倒れて行った。