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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

殺人者自暴自棄の梯子酒を飲み廻ること

そして、さっきのままの姿で俯伏している幽霊男の死骸を見た。

「アア、俺は人殺しだ」

ゾーッと氷の様なものが脊髄を這い上った。彼はその時になって、やっと彼の犯した罪を感じたのだ。

「アア、もう駄目だ」

頭の中で、あらゆる過去の姿が、地震の様にグラグラとくずれて行った。

彼は何を考える力もなく長い間突立っていた。

「だが、若しかしたら、こいつ死んだ真似をしていて、今にワッと飛び上って、俺をおどかす積りじゃないかしら」

ふと変なことを考えて、彼は死骸に近づき、その顔を光の方へ、ギュッとねじ向けて見た。だが、白茶けた羊皮紙の様な顔は、笑わなかった。笑う代りに、どうかしたはずみで、ガックリと顎が落ちると、開いた口の白い歯の間から、絹糸みたいに細い血が、ツーッと頬を伝って流れた。

それを見ると、愛之助はヒョイと手を放して、その辺に突当りながら、いきなり戸外へ飛出し、前の広っぱを人家の方へ、えらい勢で駈け出した。

殺人者自暴自棄の梯子酒を飲み廻ること

それから一時間程して、愛之助はフラリと別宅の格子戸の前に立った。どこで車を降りたのか、どこをどう歩いたのか、無我夢中であった。