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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
「アッ、血だ」
雪江の籐椅子のうしろに廻っていた明智が叫んだ。
見ると、丁度雪江の身体の下の、椅子の底から、真赤な血の滴りが、床に落ちては、はね返っている。床には小さな血の水溜りが出来ていた。
雪江の身体を引起して見ると、案の定、背中の、丁度心臓のうしろに当る箇所に、血まみれの短刀の柄ばかりが見えていた。彼女はその短刀の一突きで絶命したのだ。
「白蝙蝠だ」
短刀の白鞘に刻まれた奇怪な紋章を発見して、明智が呟いた。
「不思議だ。わしが洗面所へ行っていた間は二分か三分です。しかも、書生は、誰もこの部屋に這入ったものはないと云っている。どうして、いつのまに。……」
常右衛門氏は、娘の死を悲しむことも忘れて、賊の余りの早業にあきれるばかりだ。
見張りの書生が呼ばれて這入って来た。
「この部屋へ誰も這入らなかったことは確かだろうな」
「ハア、ドアの方に向って廊下に立っていたのですから、見逃す筈はありません。決して間違いはございません」
書生は室内の激情的な光景を見て、真青になって答えた。
「物音も聞かなかったのだね」
明智が尋ねる。
「ハア、ドアが閉ってましたし、二三間向うから見張っていましたので、何も聞きませんでした」