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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
「びっくりなさらない様に、非常に意外なものが這入っているのですから」
明智はトランクの鍵を廻しながら、まるで手品師が秘密の箱をあけて見せる時の様な表情で云った。
その刹那、赤松総監の頭に「死体」という観念がひらめいた。すると、トランクの蓋をすかして、その中に丸くなっている、不気味な血だらけの肉塊が、まざまざと見えて来る様に思われる。流石の総監も、少々顔の筋を固くしないではいられなかった。
カチンと錠前のはずれる音がして、トランクの蓋は一寸二寸と、ゆっくり開かれて行った。先ず現われたのは、旭日章のピカピカ光った警察官の制帽であった。それから、制帽の下の丸々と肥った顔、口髭、金ピカの肩章、高級警察官の黒い制服、窮屈そうに斜めになった帯剣。
それは確かに、窓の外にあかあかと陽の照っている、昼間であった。又、赤松総監は決して夢を見ている訳ではなかった。だが、夢か幻でなくて、こんな恐ろしいことが起り得るであろうか。さしもの豪傑政治家も、アッと云ったまま、目はトランクの中の人物に釘づけになり、身体は強直したかの様に動かなくなってしまった。
明智小五郎はと見ると、トランクの蓋を開け切って、じっと、獲物を狙う蛇の様な目で、総監の表情を見つめている。