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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

「どうしたんだ。今時分こんな所で」

と話しかけても、相手はやっぱりこわばった顔をくずさないで、変なことを云うのだ。

「君は誰ですか。人違いじゃありませんか」

「僕? 僕は君の友達の青木だよ。しっかりしたまえ」

「一体あなたは僕を誰だと思っていらっしゃるのですか」

「知れたこと、品川四郎だと思っているよ」

と云いさして、青木はふと黙ってしまった。久しく忘れていた、恐ろしい事実を思い出したからである。

「品川四郎? 聞いたこともありませんね。僕はそんなものじゃないですよ。………急ぎますから」

袖を払う様にして立ち去る相手の後姿を見守って、青木は呆然と立ちつくしていた。

彼奴だ、二月前自動車の中から魔法使いの様に消え失せてしまった、あのもう一人の品川四郎だ。何という意外な場所で再会したものであろう。

青木は殆ど無意識にその男の跡を追った。坂を降り切って、噴水のあたりまでも。

だが、考えて見るとこの男は東京へ帰るのだ。停車場へ行くに極まっている。流石の猟奇者も、このままの姿で東京まで尾行する勇気はなかった。それに懐中も乏しいのだ。時計を出して見ると、彼の乗るに相違ない東京行急行の発車までには、やっと駈けつける時間を余すばかりだ。