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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
愛之助は暗闇の中で、思わず身震いした。
「馬鹿な。貴様はどうかしているぞ。臆病者め。そんなことは小説家の病的な空想世界にしかないことだ。第一、この幽霊男と品川四郎と同一人だなんて、科学的にあり得ないことではないか。同一人がどうして、新聞の写真版に二つの顔を並べることが出来るか」
又、一方では帝国ホテルで食事しながら、その同じ日、同じ男が京都の四条通を歩くなんて神変不思議の芸当が人間に出来るものでない。飛行機。……アア、飛行機というものがある。併し仮令旅客飛行機を利用したとしても、帝国ホテルから立川まで、大阪築港から京都四条までの道のりを考えると、とても同じ日中同一人物が京都に現われる可能性はない。まして、愛之助と品川とがホテルで会食したのは丁度昼過ぎだったのだから、一層この芸当は不可能な訳だ。
イヤ、イヤ、そんなことをクドクド考えるまでもない。愛之助は現に、例の麹町の赤い部屋で、品川四郎と、このもう一人の幽霊男とが、三尺と隔たぬ近さで、世にも不思議な対面をしたのを、ちゃんと目撃さえしているではないか。
愛之助が闇の庭に佇んで、二階に耳をすましながら、頭では忙しくそんなことを考えていた時、突然びっくりする様な物音が起った。