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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
02 福翁自伝
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页
馬関の渡海
彼方此方マゴマゴして、小倉中、宿を捜したが、何処でも泊めない。ヤット一軒泊めて呉れた所が薄汚ない宿屋で、相宿の同間に人が寝て居る。スルト夜半に枕辺で小便する音がする。何だと思うと中風病の老爺が、しびんに遣てる。実は客ではない、その家の病人でしょう。その病人と並べて寝かされたので、汚くて堪らなかったのは能く覚えて居ます。
それから下ノ関の渡場を渡て、船場屋を捜し出して、兼て用意の贋手紙を持て行た所が、成程鉄屋とは懇意な家と見える、手紙を一見して早速泊めて呉れて、万事能く世話をして呉れて、大阪まで船賃が一分二朱、賄の代は一日若干、ソコデ船賃を払うた外に二百文か三百文しか残らぬ。併し大阪に行けば中津の倉屋敷で賄の代を払う事にして、是れも船宿で心能く承知して呉れる。悪い事だが全く贋手紙の功徳でしょう。
馬関の渡海小倉から下ノ関に船で来る時は怖い事がありました。途中に出た所が少し荒く風が吹て浪が立て来た。スルトその纜を引張て呉れ、其方の処を如何して呉れと、船頭が何か騒ぎ立て乗組の私に頼むから、ヨシ来たと云うので纜を引張たり柱を起したり、面白半分に様々加勢をして先ず滞りなく下ノ関の宿に着て、「今日の船は如何したのか、斯う/\云う浪風で、斯う云う目に遇た、潮を冠って着物が濡れたと云うと、宿の内儀さんが「それはお危ない事