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ふくおうじでん

福翁自伝

福沢 諭吉

02 福翁自伝

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页

青空文庫

始めて亜米利加に渡る

咸臨丸

その時に英学で一番六かしいと云うのは発音で、私共は何もその意味を学ぼうと云うのではない、只スペルリングを学ぶのであるから、小供でも宜ければ漂流人でも構わぬ、爾う云う者を捜し廻ては学んで居ました。始めは先ず英文を蘭文に飜訳することを試み、一字々々字を引てソレを蘭文に書直せば、ちゃんと蘭文になって文章の意味を取ることに苦労はない。唯その英文の語音を正しくするのに苦んだが、是れも次第に緒が開けて来れば夫れはどの難渋でもなし、詰る処は最初私共が蘭学を棄てゝ英学に移ろうとするときに、真実に蘭学を棄てゝ仕舞い、数年勉強の結果を空うして生涯二度の艱難辛苦と思いしは大間違の話で、実際を見れば蘭と云い英と云うも等しく横文にして、その文法も略相同じければ、蘭書読む力は自から英書にも適用して決して無益でない。水を泳ぐと木に登ると全く別のように考えたのは一時の迷であったと云うことを発明しました。

始めて亜米利加に渡る

咸臨丸ソレカラ私が江戸に来た翌年、即ち安政六年冬、徳川政府から亜米利加に軍艦を遣ると云う日本開闢以来、未曾有の事を決断しました。扨その軍艦と申しても至極小さなもので、蒸気は百馬力、ヒユルプマシーネと申して、港の出入に蒸気を焚くばかり、航海中は唯風を便りに運転せねばならぬ。