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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
02 福翁自伝
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页
主従の間も売言葉に買言葉
夫れよりか金の方が宜い。一両三分あれば昨日見た彼の原書も買われる、原書を買わなければ酒を飲むと云うような、至極無邪気な事であった。
主従の間も売言葉に買言葉爾う云う風であるから藩に対して甚だ淡白、淡白と云えば言葉が宜いけれども、同藩士族の眼から見れば不親切な薄情な奴と見えるも道理で、藩中の若い者等が酒席などで毎度議論を吹掛ることがあるその時に、私は答えて「不親切薄情と云うけれども、私は何も奥平様に向て悪い事をしたことはない、一寸とでも藩政の邪魔をしたことはない、只命令の儘に堅く守て居るのだ。この上に親切と云てドウ云うことをするのか。私は厚かましい事は出来ない、之を不親切と云えば仕方がない。今も申す通り私は藩に向て悪い事をしないのみか、一寸とでも求めたことがなかろう、或は身分を取立て呉れろ、禄を増して呉れろと云うような事は、蔭にも日向にも一言でも云たことがあるか。その言葉を聞た人がこの藩中に在るかドウか、御家老以下の役人に聞て見るが宜い。厚かましく親切を尽して、厚かましく泣付くと云うことは、自分の性質に於て出来ない。是れで悪いと云うならば追出すより外に仕方はあるまい。