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ふくおうじでん

福翁自伝

福沢 諭吉

02 福翁自伝

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页

青空文庫

廻国巡礼を羨む

長州室津の心配

その次には洋学者流を売国奴と云うのも無理はない。サア洋学者も怖くなって来た。殊に私などは同僚親友の手塚東条両人まで侵されたと云うのであるから、怖がらずには居られない。

廻国巡礼を羨む又真実怖い事もある。凡そ維新前、文久二、三年から維新後、明治六、七年の頃まで、十二、三年の間が最も物騒な世の中で、この間私は東京に居て夜分は決して外出せず、余儀なく旅行するときは姓名を偽り、荷物にも福澤と記さず、コソ/\して往来するその有様は、欠落者が人目を忍び、泥坊が逃げて廻わるような風で、誠に面白くない。そのとき途中で廻国巡礼に出逢い、その笠を見れば何の国何都何村の何某と明白に書てある。「扨々羨ましい事だ、乃公もアヽ云う身分になって見たいと、自分の身を思い又世の有様を考えて、妙な心持になって、ソレからその巡礼に銭など与えて、貴様達は夫婦か、故郷に子はないか、親はあるか、など色々話し、問答して別れたことは今に覚えて居ます。

長州室津の心配是れも私が姓名を隠して豊前中津から江戸に帰て来た時の事です。元治元年、私が中津に行て、小幡篤次郎兄弟を始め同藩子弟七、八名に洋学修業を勧めて共に出府するときに、中津から先ず船に乗て出帆すると、二、三日天気が悪くて、風次第で何処の港に入るか知れない、スルと南無三宝、攘夷最中の長州室津と云う港に船