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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

不安と憂慮のために消えていた村川の情熱が、ストーブの火が燃え盛るのと一緒に烈しく燃え上った。倭文子のうっとりと、半ばとざされた眸が見えた。

「ねぇ、ねぇ……」

「なあに!」

「接吻してはいけない?」

「いやですわ、そんなこと恥しいわ。」

そういって、倭文子は銘仙のたもとの袖で急に顔をおおった。

「何をおっしゃるのです。」

村川は、倭文子の顔をおおっている両手をはずした。手はもろく離れて、紫色の袖のはずれから、倭文子の真赤な小さい唇が現れた。村川は、それにすばやく接吻した。最初、それを拒もうとした倭文子の抵抗は、すぐ止まって、二人はすべての心と魂とを、めいめいの唇にこめたように、長い強い接吻をした。

その後に、不安とその不安を圧倒しつくしたような歓喜とにつかれた二人は、しばらくだまっていた。

「宮田君が、死んでいなければいいがなあ。」

村川は、心からそうつぶやいた。

「ほんとうですわねぇ。」

だが、今まで二人とも気がつかなかった波の音が、閉めきったドアの隙間から、二人の幸福を脅かすようにきこえて来た。

「ああ宮田さん、どうぞどうぞ、生きていて下さいませ!」

初めて恋愛の歓喜を味わい、恋愛によって生の楽しみを知った倭文子は、低く祈るようにつぶやいた。