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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

三

三

「ご免なさい!」

「おや、また村川さん鬼ですか。」

「そうです。」

夫人は、居間で、小遣帳らしいものを出して調べていた。五十に近い小柄な細面の顔は年よりも老けて見えた。

「また、美智子がおねだりしたのでしょう。本当にご迷惑ですね。」

「いいえ、そこの押入をちょっと開けてもいいですか。」

「はい、どうぞ。」

夫人は押入の前から、身を退ってくれた。村川は、近づいて押入の襖に手をかけようとした、すると、押入の中が、ひとりでにゴトゴトと動いて、宗三が姿を現わした。

「いやだ! いやだ! お母さまがいいつけるんだもの。」

「まあ。誰も、いいつけはしませんよ。」

「だって、どいちゃいやだよ。お母さまにここにいてちょうだいといったじゃないの。」

「だって、そんな事は、無理ですよ。ねぇ、村川さん!」

村川は苦笑していた。

「つまんないなあ。」

「ずるいわ。兄さん!」

美智子が、いつの間にかそのかくれ場所から出て来ていた。

「なに! おてんば!」

宗三は気色ばんだ。

「鬼になって、文句をいう奴は……」

美智子は、片足でトントン廊下を駆け去りながら叫んだ。

京子と倭文子とが並んで、洋館の方から来た。