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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

二

二

村川に頼まれたウェイトレスは、気軽に小石川の五百三十六番を呼び出した。

「あの、お宅に山内さんのお嬢さんが、いらっしゃいますか。……ああそうですか。どうぞお電話口まで。」

村川は、心配になって電話の傍へ行って立っていた。

「お待ち遠さま。」

ウェイトレスは村川をからかった。

だが、倭文子はこっちの名前も訊き質さないで電話に出た。

「お出になりました。」

そういって、ウェイトレスが受話器を渡してくれたとき、村川は胸がつまって、咄嗟に言葉が出ないほどだった。

「倭文子さんですか。僕です。村川です。」

「ええ。」

倭文子は、あるかないかの小さい声で返事した。

「僕の声がわかりますか。」

「ええ。」

「昨夜は失礼しました。昨夜はあなたは、どうなすったのです。あすこへ来て下さったのですか。」

倭文子は、何とも返事しなかった。

「偶然京子さんがあすこにいたのです。ご存じですか。」

倭文子は、何とも答えなかった。

「もし、もし。もし、もし。」

「ええ。」

倭文子は、かすかに返事をした。

「僕は、あなたに今すぐにでも、お目にかかりたいのですが、家では安心して、お話が出来ないのです。