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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
いずれ間もなく井谷が現れそうなので、まさか今から寝直す訳にも行かないけれども、帯でも解いて暫くくつろいでいる方がよくはないか。―――彼女は、自分はどうでも、雪子のことが案じられた。と云うのは、ずっとあれから続けている注射が利いて来たのでもあろうか、このところ好い塩梅に眼の縁の翳りが、完全に消えたとは云えないけれども大分薄くなっているのであるが、多分もう月の病が近づいている頃でもあるし、汽車旅行の窶れで冴えない顔色をしているのを見ると、こう云う時によくあのシミが濃くなることを思い合せて、何よりこの場合雪子を疲れさせないことが第一であると考えられた。
「どうしょう、雪子ちゃん。明日にした方がええやろうな、くたびれているよって。―――」
「今日でもええけど」
「会は夕方五時からやよって、明日でも時間ないことはないねん。―――今日はまあ、一と休みして、銀座へでも行って見よう、いろいろ買物もせんならんし。………」
「うち、ちょっと横にさせて貰うわ」
妙子はさっき、この部屋へ這入ると「い」の一番に掛け心地のよさそうな安楽椅子を無遠慮に占拠して、ぐったりと横っ倒しに靠れかかっていたのであったが、姉たちがしゃべっている間に羽織を脱ぎ帯を解きして伊達巻姿になり、さっさとダブルベッドの上に臥ころがった。