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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

珈琲は珈琲碾の器械を買って家で碾くのに限ります。ひきたてでないと香気がありません。それを玉子の白身でアクを取りました」と聞いて大原が先日の事を想出し「今日は玉子の殻でなくって白身をお使いですか、非常の御奮発ですな」お登和「イイエ魚のフライを揚げます時黄身でくるみますから残った白身を珈琲の方へ廻しました」大原「なるほど、やっぱり無駄にはならん。しかし今日のは味が格別ですね」お登和「レモンを一滴ほど滴らしてあります」大原「どうも今日は色々お心尽しの御馳走でした。何を食べたか尽く覚え切れん位で、エート最初が鯛のスープにその次がヤマメのフライ、その次が何とかのケーポン、その次がイチボ、その次が梅餡、その次が玄米、その次が蜜柑のフライですかな。なるほど如何なる贅沢家も金満家もこれだけの御馳走を揃える事は容易に出来ないでしょう。してみると美味い物を食べるのは金力ばかりでありません。全く食物上の智識の力ですね。僕も追々その力を教えて戴かなければならん」とさも感心したるように言う。小山が笑いながら「誰に教えて戴くのか。エ、誰に」大原「ウフフ」と羞かしそうに黙っている。