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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

第七 大食家

客「ハイ参りますとも。そんな事がなくとも、今日は此方から中川君へ廻るつもりでした。では早速中川君の家へ出かけましょう。今の事は何分よろしく」と大急ぎにて出でて行く。妻君送り出して打笑い「ホントに罪のない人だ」

第七 大食家

中川と呼ばれしは二年ほど前に大学を卒業し今は或る文学雑誌の編輯に従事する人物。下宿屋住居も不自由とて去年新に家を借り下女を雇いて世帯を任せしがこれも何かに不便多く、国元より妹を呼寄せて女房の出来るまで家事を任せ好き口あらば東京にて嫁入させん下心。兄の中川は年始廻りより帰り来りて衣服を着換え「お登和や今日の豚料理はどうだね、美味しく出来たかえ」妹「ハイ先日よりも良く出来ました。暮に小山さんとおっしゃるお方がいらっした時のは肉が悪い故でございますか誠に不出来でしたが今日のは兄さんが好い肉をお捜し下すったお蔭で角煮なんぞは長崎で拵えるように出来ました」兄「そうか、それは何よりだ。余所で頻りに晩餐を食べて往けと勧められたけれども和女のお料理が出来ているだろうと思って何にも食べずに戻って来た。そんなによく出来たら誰かを呼んで御馳走したいの。